口腔機能低下症
「最近、固いものが食べにくくなった」
「お茶や汁物でむせることが増えた」
「会話をしているときに呂律が回りにくいと感じることがある」
こうしたお口周りの些細な変化を、「年齢のせいだから仕方がない」と見過ごしてはいないでしょうか。
加齢や生活習慣の変化などに伴い、お口の働きや筋肉、舌の動きが衰えていく状態を「口腔機能低下症(こうくうきのうていかしょう)」と呼びます。
口腔機能低下症は、単にお口の中が不便になるだけでなく、食べる楽しみの減少や栄養状態の偏り、さらには全身の健康状態の低下(フレイル)を引き起こす引き金となることが分かっています。
当院では、お口の健康を長く維持し、いつまでもご自身の口で美味しく食事を楽しんでいただくための検査とトレーニング、サポートを行っています。
口腔機能低下症を引き起こす「7つの症状」
口腔機能低下症は、1つの症状だけが単独で現れるのではなく、以下に挙げる複数の要素が複合的に絡み合って進行します。
日本老年歯科医学会や厚生労働省の基準においても、これらは重要な評価項目とされています。
口腔衛生状態の不良
お口の中の清掃状態が悪くなり、歯垢や細菌が増加している状態です。お口の自浄作用やセルフケア能力が低下することで起こります。
口腔乾燥(ドライマウス)
唾液の分泌量が減少し、お口の中が乾く状態です。唾液には食べ物の消化を助けるだけでなく、細菌の繁殖を抑える重要な役割があるため、乾燥は虫歯や歯周病、口臭の原因になります。
咬合力(噛む力)の低下
自分の歯やインプラント、あるいは適合の良い入れ歯を用いて、しっかりと力強く噛み締める力が弱くなっている状態です。
舌唇運動機能の低下
言葉を正確に発音したり、食べ物を飲み込みやすくするために必要な「舌」や「唇」を素早く、正確に動かす能力が低下している状態です。
低舌圧(舌の力の低下)
舌で上顎を押し上げる力が弱くなっている状態です。舌圧が低下すると、食べ物をうまく丸め込んで喉の奥へ送り出すことが難しくなります。
咀嚼機能の低下
食べ物を噛み砕いて、飲み込みやすい状態にするための粉砕能力が低下している状態です。噛む回数が減ることで消化器官への負担にもつながります。
嚥下機能の低下(飲み込みにくさ)
食べ物や水分を、気管に入れないように食道へスムーズに送り込む機能が低下している状態です。むせこみや誤嚥(ごえん)のリスクを高める要因となります。
なぜ口腔機能低下症が問題なのか:放置するリスクと全身への影響
「食べづらさはあるけれど、まだ食事はできているから大丈夫」と口腔機能低下症を放置してしまうと、お口の問題にとどまらず、全身の健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。
栄養状態の偏りと低栄養
固いものや噛み切りにくいものを避けるようになると、肉や魚、野菜などの摂取量が減り、炭水化物中心の柔らかい食事に偏りがちになります。これが慢性的なタンパク質やビタミン不足、さらには低栄養を招きます。
オーラルフレイルから全身の虚弱(フレイル)へ
お口の機能低下(オーラルフレイル)は、噛む力や飲み込む力の低下を通じて、全身の筋肉量の減少(サルコペニア)や身体活動の低下を引き起こすことが知られています。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)のリスク増大
飲み込む機能や咳をして異物を吐き出す力が衰えると、唾液や食べ物と一緒に口の中の細菌が気管や肺に入り込みやすくなり、高齢者に多い誤嚥性肺炎のリスクを高める原因となります。
当院における口腔機能低下症の検査と評価
口腔機能低下症の診断や状態の把握では、専用の測定機器を用いて客観的な数値を確認することが重要です。
当院では、患者様のお口の状態を正確に把握するための検査を行っています。
噛み合わせの検査
咬合力を測定し、どれくらいの力で噛めているかを確認します。
舌の圧力の測定(舌圧測定器)
舌で上顎を押し上げる力を測定し、数値化します。
舌や唇の運動速度の測定
特定の音を発音してもらい、舌や唇を動かすスピードを測定します。
問診票による主観的評価
普段のお食事でのむせこみや、硬いものの食べにくさなどについて詳しくお伺いします。
これらの検査結果をもとに、現在の機能がどの程度低下しているかを評価し、一人ひとりの状態に応じたアプローチを検討します。
口腔機能を改善・維持するための具体的なアプローチとメリット
口腔機能低下症と診断された場合、あるいはその兆候が見られる場合には、失われた機能を再び高めるためのトレーニング(口腔リハビリテーション)や環境調整を行います。
お口の体操と筋力トレーニング(口腔リハビリテーション)
舌や唇、顎、喉周辺の筋肉を意識的に動かすトレーニングを行います。
舌や唇の動きが滑らかになり、呂律がはっきりすることで会話を楽しむ自信を取り戻すことができます。また、食べ物をうまく動かせるようになり、食事中のむせこみが軽減されます。
具体的な内容
パタカラ発声練習(「パ」「タ」「カ」「ラ」を繰り返し発音することで、唇や舌の動きをスムーズにする)、舌を上下左右に動かすストレッチ、唾液腺のマッサージなど。
咀嚼および嚥下訓練
実際に食事をするときの噛み方や飲み込み方のコツを学びます。
一口の量を適切にし、しっかりと回数を噛んで食べる習慣をつけることで、消化吸収が促され、全身の健康維持につながります。
適切な補綴物(入れ歯など)の調整と作製
歯が抜けたままになっている箇所や、合っていない入れ歯をそのまま使用していると、十分に噛むことができません。
しっかりと噛める環境を整えることで、咬合力が回復し、硬い食品も含めてさまざまな食材を美味しく食べられる喜びを取り戻すことができます。
口腔衛生管理とドライマウス対策
お口の中の細菌数を減らし、清潔な環境を保つためのプロフェッショナルケアとセルフケア指導を行います。
また、必要に応じて保湿剤の使用や唾液腺マッサージを取り入れます。
お口のネバネバ感や乾燥からくる不快感が和らぎ、感染症リスクの軽減や口臭予防につながります。
おわりに:いつまでも自分の口で食べる喜びを支えるために
お口の機能の衰えは、ゆっくりと進行するため、ご自身では気づきにくい場合があります。
「最近、食べるのが遅くなった」
「食事中にむせることがある」
といった小さなサインを見逃さず、早めに対応することが大切です。
当院では、患者様がいつまでもご自身の歯やお口を使って、美味しく食事をし、楽しく会話ができる日常を守るためのサポートを行っています。
お口周りの変化や機能低下について気になることがございましたら、どうぞお気軽に当院へご相談ください。
